君に幸あれ(注:ガウリナゼルアメです







3・2・1・・・・・

どおおぉぉん!
パ〜ン!パ〜ン!

新年を迎えたここセイルーンでは、先ほどから盛大な花火が打ち上げられていた。
加えて豪勢なパーティー会場、煌びやかなドレスや礼服の来賓たちが談笑し、曲に合わせて舞い踊る。
どこの王室にも見られる、新年を祝うパーティーの図だった。
立食形式のこのパーティー会場、客たちは小鳥がついばむほどにしか料理に手をつけない。
しかし、その一角だけは幾分か・・・いや、大分チグハグな光景が見られた。


「リナさんリナさんっ!年が明けましたよ、食べてばかりいないでお祝いしましょうよっ!」
「さっきからこうしてパーティーしてるじゃない。追加のご馳走はまだ!?ローストチキンは?デザートはっ!?」

リナはアメリアの目の前で両手に構えたナイフとフォークをがちゃつかせた。
紅色のドレスをその華奢な身体に纏い、髪は高い位置に結い上げて真珠の髪飾りで一つにまとめている。
外見だけなら美少女の部類に入る彼女だが、しかし目つきは完全に獲物を狙う獣の眼差しである。
その隣には、長い金髪を一つにまとめて背中に流し、黒い礼服をまとった青年――ガウリイ。
先ほどからその辺の女性の視線を集めまくってはいるのだが、こちらも視線が完全に逝ってしまっている為に誰も近づいてこない。

「もう王宮の厨房にパーティー料理はのこってませんよ、少しは遠慮してくださいよ〜」
「なんですってっ!?大変、それならこの場にあるご飯を食べつくさなきゃ!次のテーブルに行くわよガウリイ!」
「おうっ!」
二人はテーブルに向き直り、光の速さで目の前のプレートを空にしていく。
「ちょっとリナさぁ〜ん!」


「もうやめておけ。あの二人の食事を邪魔したら何が起こるかわからん」
「だってゼルガディスさん・・・」
後を追おうとするアメリアを引き止めたのは、こちらも黒い礼服をきたゼルガディスだった。
ちなみに幾分かげっそりしている。
アメリアもゼルガディスも、日ごろ彼らの食欲には目を覆いたくなるものがあるが、さすがにここまで食べ続けるとは思わなかったのだ。
今の二人に効果音をつけるとしたら、間違いなく『ごおぉぉぉっ!!』とか『きしゃあぁぁぁっ!!』とか、何かの爆音がぴったり来るだろう。
邪魔をしたら、それこそただでは済まないことを本能的に知っていた。

「せっかく四人がそろった新年なのに〜」
「諦めろ。奴らには食べることが新年を祝うことなのさ。年が明けようが明けなかろうが、あの二人は相変わらずだろう」
「・・・それもそうですね・・・。あの二人が厳かに新年を祝っている光景なんて考えられませんよね・・・」

妙に納得して、アメリアはため息をつく。
二人が食事に夢中になっているとなれば、こちらは暇を持て余すしかない。
来賓への面倒な挨拶は早々に済ましてしまったのだから。

「そうだ、ゼルガディスさん、踊りましょう♪」
「なっ何故突然そこへ行く!?」
「恥ずかしがらなくてもいいんですよ!さあ、はやくはやく♪」

唐突に名案が思い浮かんだらしいアメリアは、ゼルガディスをずるずる引きずっていった。
動揺を物凄い精神力で押さえ込みつつ、ゼルガディスは腕を引っ張り突き進んでいくアメリアに視線を向けた。
ピンク色の長く可愛らしいドレスが、ティアラを戴く黒髪に良く映える。
この無敵のお姫さまについていけるのは、リナとガウリイの他に自分だけかもしれない。

顔を真っ赤にした末姫が、顔を紫色に変色させたキメラの男を幸せそうに引っ張っていく。
そんな光景を遠巻きに見つめていたフィリオネル王子が微笑んでいたことは、また別の話になる。




「おー、見ろよリナ。アメリアがゼルと踊ってるぞ〜」
「あー、まあ二人は二人で勝手にやってなさいってことよ」

リナは曖昧に答えた。
メニューを一通り食べ終えて満足したのか、二人はデザートのアイスクリームで今日のお食事バトルを締めくくっていた。

「ひょっとしてお前さん、二人に気ぃ使ってたのか?」
「さあ、何のことかしら?」
「何のことだろうな?」

二人は顔を見合わせ笑いあう。
その笑みは、いたずらが成功した子供の様でもあり、友人の幸せを心から祝福するそれのようでもあった。

「今年もお前さんの暴れっぷりは変わらないだろうなぁ」
「あら、それを言うならあんたのくらげっぷりだって変わらないわよ」
「そうか」
「そうよ」


・・・・・

穏やかな沈黙は会場の円舞曲にかき消された。
リナにはわかっていた。目の前の青年も同じことを考えているだろうことが。

リナは長い金髪をひっぱり、長身のガウリイの目線を精一杯自分の目線に近づけた。
もちろん自分が背伸びすることも忘れない。
そうして年が明けてからずっと言えなかった言葉を、小さく小さく彼の耳元で告げた。

友人達の幸せを願いながら。
彼への感謝と共に。


「今までありがとう これからもよろしく」



End.





2007年正月。アップするのが遅くなってしまいました><
皆さまのご多幸をお祈り申し上げます。
本年もサイト共々よろしくお願いいたします。







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